建築家の色彩パレット

建築家が語る:プロが教える、空間に心地よい「色のバランス」をもたらす秘訣

Tags: 色彩計画, 空間デザイン, 色のバランス, インテリア, 建築家の視点, 配色

「建築家の色彩パレット」へようこそ。このサイトでは、著名な建築家やデザイナーの視点から、空間と色彩の奥深い関係を探求します。今回は、心地よい空間づくりに不可欠な「色のバランス」について、ある建築家の先生に伺いました。

空間における色彩バランスとは何か

私たちが空間の心地よさを感じるかどうかの大きな要因の一つに、色彩の「バランス」があります。これは単に好きな色を組み合わせれば良いという話ではありません。プロの視点から見ると、色彩バランスとは、空間全体に使われる色の量、種類、明るさ、鮮やかさ、そしてそれぞれの色が持つ質感が、互いに調和し、見る人に安定感や落ち着きをもたらす状態を指します。

「空間の色を考えるとき、多くの方は『どの色を使おうか』から始めがちです。もちろん色の選択は重要ですが、それ以上に大切なのは、それらの色をどのような『バランス』で配置するか、ということです。まるでオーケストラのように、それぞれの色がそれぞれの役割を果たし、全体として美しいハーモニーを奏でる。これが理想的な色彩バランスです」

このように、建築家は単色や配色そのものだけでなく、空間全体の関係性の中で色を捉えているのです。

プロが実践する「バランス」の考え方

では、具体的にプロはどのように色彩バランスを考えているのでしょうか。

「私がよく使う考え方に、空間を構成する色の役割を『ベースカラー』『アソートカラー』『アクセントカラー』の3つに分けて捉える方法があります」

「これらの色の占める面積の一般的な目安として、『ベースカラー70%:アソートカラー25%:アクセントカラー5%』という比率がよく引き合いに出されます。これはあくまで目安ですが、この比率を意識するだけでも、空間全体にまとまりが生まれやすくなります」

この比率は絶対ではありませんが、色の量をコントロールすることがバランスを保つ上でいかに重要であるかを示しています。色が多すぎたり、アクセントカラーのような強い色が広い面積を占めたりすると、空間は落ち着きを失い、見る人に圧迫感を与えてしまうことがあります。

心地よいバランスをもたらす秘訣

さらに、プロは色彩バランスを整えるために、いくつかの秘訣を意識していると言います。

「一つ目は、『トーン』を揃えることです。トーンとは、色の明るさや鮮やかさの度合いをグループ化したものです。例えば、『グレイッシュなトーン』で揃えると、たとえ異なる色相(赤、青、緑など)を使っても、全体として落ち着きや調和が生まれます」

PCCS(日本色研配色体系)のようなカラーシステムにおけるトーン分類は、専門的な知識ですが、簡単に言えば「くすんだ色」「明るい色」「鮮やかな色」といった雰囲気のグループです。複数の色を選ぶ際に、この「雰囲気」を意識して揃えることで、色同士がケンカせず、自然な調和が生まれます。

「二つ目は、『引き算』の考え方です。色を足していくことばかり考えるのではなく、『この色は本当に必要か?』『この色をなくすとどう見えるか?』と考える勇気も必要です。シンプルな色使いほど、洗練された心地よさにつながることが多いのです」

特に一般の空間では、たくさんの色を使うよりも、限られた色数を効果的に使う方が、失敗が少なく、心地よい空間になりやすい傾向があります。

「三つ目は、『素材の色』を大切にすることです。木材、石、土壁、リネン、コットンといった自然素材の色や風合いは、それ自体が美しい色であり、空間に深みと温かさをもたらします。これらの素材の色をベースやアソートカラーとして活用すると、空間全体のバランスが取りやすくなります」

素材が持つ本来の色は、人工的な色よりも空間に馴染みやすく、リラックス効果も期待できます。無垢材の床や、漆喰の壁などを活用することで、心地よい色彩バランスの基盤を築くことができます。

まとめ

空間の心地よさは、単に好きな色を選ぶだけでなく、それらの色をどのような「バランス」で配置するかに大きく左右されます。ベース、アソート、アクセントという役割分担や、トーンを揃える意識、「引き算」の勇気、そして素材の色を大切にすること。こうしたプロの視点からの秘訣を参考に、ぜひご自身の空間の色彩バランスを見直してみてはいかがでしょうか。色のバランスを意識することで、きっと今よりもっと心地よく、整った空間を実現できるはずです。