建築家の色彩パレット

建築家が語る:空間の魅力を引き出す、素材と色の対話

Tags: 色彩計画, 空間デザイン, 素材, 色選び, 建築家の視点

建築家は「色」だけでなく「素材」そのものの色と対話します

空間を彩る要素として、壁の色、天井の色、家具やファブリックの色など、いわゆる「色」を思い浮かべる方が多いでしょう。もちろん、これらは空間の印象を大きく左右する重要な要素です。しかし、建築家やデザイナーは、それらの「塗られた色」や「付けられた色」だけでなく、空間を構成する「素材」そのものが持つ色や質感にも深く注目します。

木、石、コンクリート、金属、土壁など、それぞれの素材は固有の色、模様、そして何よりも豊かな質感を持っています。これらの素材の色は、人工的な色とは異なる独特の存在感を放ち、空間に深みや奥行きを与えます。プロの視点では、素材の色は空間の「基盤となる色」あるいは「対話する相手」として捉えられます。

では、建築家やデザイナーは、素材の色と人工的な色をどのように組み合わせ、空間の魅力を最大限に引き出しているのでしょうか。

素材の色が空間に与える影響

まず、なぜ素材の色がそれほど重要なのでしょうか。著名な建築家の一人は、素材の色について次のように語ります。

「自然素材、例えば木であれば年月の経過とともに色合いが変化し、風合いが増していきます。石や土には、その土地の記憶や自然の力が宿っているように感じられます。これらの素材が持つ色は、単なる表面的な色ではなく、素材の構造や歴史、そして時間の流れを含んでいます。こうした色を空間に取り入れることは、空間に生命感や物語を与えることにつながります。」

素材の色は、視覚だけでなく触覚にも訴えかけます。木目の凹凸、石のひんやり感、土壁の柔らかさなど、質感と色は密接に関係しています。マットな質感の素材は色を落ち着かせ、光沢のある素材は色を鮮やかに見せます。建築家は、この質感と色の組み合わせによって、空間に多様な表情を生み出すのです。

素材の色と人工的な色の組み合わせ方

素材の色を活かしながら、人工的な色を加えて空間をデザインする際、建築家はいくつかの考え方を持ちます。

一つは、素材の色と「調和させる」方法です。例えば、温かみのある木の色には、ベージュやアイボリー、穏やかな緑色など、同系色や自然界にある色合いを合わせることで、心地よく落ち着いた空間が生まれます。

もう一つは、素材の色を「引き立てる」方法です。例えば、無機質なコンクリートの色に鮮やかな青や赤の家具を配置したり、木目の美しい床にシャープな黒い壁を合わせたりすることで、素材の存在感を際立たせることができます。ただし、この場合は色の選び方や量のバランスが非常に重要となり、全体の調和を崩さないよう慎重に進められます。

また、白、黒、グレーといった「無彩色」は、どんな素材の色とも合わせやすく、素材の質感そのものを強調したい場合によく用いられます。しかし、一歩間違えると単調になりがちですので、異なる質感の素材を組み合わせたり、光の陰影を巧みに利用したりする工夫が必要になります。

プロの思考プロセス:素材サンプルとカラーパレット

建築家が実際に色を決める過程では、素材サンプルと色のサンプルを並べて検討することが欠かせません。紙の上やコンピューターの画面だけでは分からない、実際の素材の持つ色、質感、そして光の当たり方による見え方の変化を、時間をかけて確認します。

「例えば、同じベージュの壁色でも、隣に置く木のサンプルが赤みがかったものか、黄色みがかったものかで、見え方は全く変わります。また、自然光の下で見る色と、電球色の照明の下で見る色でも印象は大きく異なります。だからこそ、必ず実際のサンプルを手にとって、さまざまな光の条件下で確認し、素材と色がどのように『対話する』のかを見極める作業が非常に重要になります。」と、あるデザイナーは説明します。

素材の色と人工的な色は、それぞれが独立して存在するのではなく、互いに影響し合い、空間全体の雰囲気を創り出します。建築家は、この「対話」を意識しながら、空間のコンセプトや目的に合った最適な色の組み合わせを見つけ出していくのです。

あなたの空間で素材の色と対話してみましょう

私たちの身近な空間にも、床材の木、タイルの色、コンクリートの壁、金属の家具など、さまざまな素材が存在します。ご自身の空間を見渡してみて、素材が持つ色や質感に意識を向けてみてはいかがでしょうか。

もし壁の色を変えたいと考えているなら、床の木の色や建具の色、あるいは窓から見える景色に使われている色との調和を考えてみましょう。新しい家具やカーテンを選ぶ際には、既存の素材の色との組み合わせを想像してみてください。小さなクッションやラグの色一つでも、素材の色との対話によって空間の印象は変わります。

建築家が素材の色を空間の基盤として捉え、人工的な色との豊かな対話を生み出すように、私たちも身近な素材の色からヒントを得ることで、より魅力的で心地よい空間づくりを楽しむことができるでしょう。プロの視点を参考に、あなたの空間で素材と色の新しい関係性を築いてみてください。