建築家の色彩パレット

建築家が語る:空間の始まりと繋がりを彩る、玄関・廊下の色彩計画

Tags: 玄関, 廊下, 色彩計画, 空間デザイン, インテリア

ウェブサイト「建築家の色彩パレット」にようこそお越しくださいました。このサイトでは、著名な建築家やデザイナーの方々から、空間と色彩の関係性について貴重なお話を伺っております。今回は、住まいの始まりであり、各部屋を繋ぐ要でもある「玄関」と「廊下」の色彩計画について、プロフェッショナルの視点からお話を伺ってまいります。これらの空間は往々にしてコンパクトですが、その色彩が住まい全体の印象や、そこに暮らす人々の日常に与える影響は計り知れません。

玄関・廊下が持つ空間の役割と色彩

玄関は、住まいへ足を踏み入れた際に最初に目にする空間であり、家全体の第一印象を決定づける重要な場所です。同時に、外の世界からプライベートな空間へと緩やかに導く、言わば「境界」の役割も担います。また、廊下は各部屋と部屋、そして玄関や水回りといった機能空間を結びつける「繋がり」の空間です。移動のための一時的な場所として捉えられがちですが、ここにどのような色彩を用いるかによって、住まい全体の連続性やリズム感が大きく変わります。

建築家は、これらの空間の色彩を考える際に、単に壁の色を決めるのではなく、まずその空間が持つ役割や、そこに滞在する時間、自然光や人工光の入り方、そして住まう方々のライフスタイルや希望する雰囲気を深く考慮します。

玄関の色彩計画:迎える・送り出す空間をどう彩るか

玄関に求められる要素として、一般的には明るさ、清潔感、そして訪れる人や帰宅した家族を温かく迎え入れる安心感が挙げられます。しかし、それだけでなく、その住まいの個性をさりげなく表現する場所でもあります。

プロの視点では、まず「どのような第一印象を持たせたいか」を具体的に考えます。例えば、開放的で明るい印象であれば、壁や天井に明るいオフホワイトやペールトーンの色彩を選び、床材も明るめの木材やタイルを選ぶことが多いでしょう。これにより、狭くなりがちな玄関でも視覚的な広がりを感じさせることができます。

一方、落ち着いたモダンな雰囲気を好む場合は、少し深みのあるグレーやベージュを基調としつつ、素材の質感(例えば、石やコンクリート風のタイル、木目の美しい壁材など)が持つ本来の色や陰影を活かすことを考えます。アクセントとして、アートを飾る壁面だけ色を変えたり、照明器具の色温度(光の色合い)を調整したりすることで、空間に変化と深みを持たせることができます。

玄関は収納スペースも重要ですが、シューズボックスなどの扉の色を壁の色に馴染ませることで、空間をすっきりと見せる効果があります。逆に、扉だけを際立つ色や素材にすることで、デザインのポイントとすることも可能です。

廊下の色彩計画:空間の繋がりとリズムを生む

廊下は、部屋から部屋へと移動する際に通過する空間ですが、ここにも色彩によって様々な効果を生み出すことができます。

例えば、廊下全体を明るいトーンで統一すると、空間が連続して見え、視覚的な広がりを感じやすくなります。これは特に、廊下が狭い場合に有効な手法です。壁の色を明るくすることで、自然光や照明の光が反射し、より明るく心地よい通路となります。

しかし、ただ明るくするだけでなく、空間にリズムや変化を与えることも重要です。廊下が長い場合、単調な色彩では間延びした印象になることがあります。その場合は、突き当りの壁だけをアクセントカラーにしたり、途中の壁面にニッチ(壁を凹ませた飾り棚)を設け、その内部の色を変えたりすることで、空間に奥行き感や視覚的な誘導効果を生み出すことができます。

床材の色も廊下の印象を大きく左右します。隣接する部屋の床材との繋がりを考慮し、素材の色やテクスチャ(表面の質感)を選ぶことで、空間全体の調和を保ちつつ、廊下独自の質感を表現することが可能です。例えば、フローリングであれば部屋と同じ素材を使っても、貼り方を変えるだけで変化をつけることができます。

建築家はこう考える:色を決めるプロセス

建築家が玄関や廊下の色を考える際、最も重視するのは、その空間が住まい全体の中でどのような役割を担い、どのような「体験」を住まう人に提供すべきかという点です。

  1. 機能と動線を把握する: その空間がどのように使われ、人がどのように移動するかを理解します。
  2. 光の質と量を分析する: 自然光がどのように入り、人工光をどのように配置するかを検討し、その光の下で色がどのように見えるかを想像します。
  3. 住む人の意向を反映する: クライアントの好み、ライフスタイル、理想とする住まいの雰囲気を丁寧にヒアリングします。
  4. 全体計画の中での位置づけ: 玄関・廊下だけを切り離して考えるのではなく、リビングや寝室など他の空間との色彩的な連続性や対比を計画します。
  5. 素材との対話: 壁材、床材、建具、照明器具など、空間を構成する様々な素材の色、質感、光沢を考慮し、それらが互いにどのように影響し合うかを見極めます。

これらのプロセスを経て、単に「好きな色」を選ぶのではなく、その空間にとって最もふさわしい、そして住む人にとって心地よいと感じられる色彩計画を導き出していきます。小さな空間だからこそ、細部まで丁寧に色を選ぶことが、住まい全体の質を高めることに繋がるのです。

ご自宅やオフィスへの応用に向けて

ご自身の住まいやオフィスにおいて、玄関や廊下の色彩を見直してみることは、空間の印象を大きく変える一歩となります。大規模なリノベーションをしなくても、壁の一面だけ色を変えてみる(アクセントウォール)、小物(傘立て、スリッパラック、アートなど)の色を見直す、照明器具を変えてみる、といったことから始めることができます。

プロの視点から言えるのは、まず「どんな空間にしたいか」という明確なイメージを持つことです。そして、そこで使われている素材の色や質感、光の当たり方をよく観察してみてください。小さな空間だからこそ、思い切った色使いが成功することもありますし、逆に控えめな色使いの中に質の良い素材の色を活かすことで、品格のある空間が生まれることもあります。

玄関や廊下は、毎日必ず使う空間です。これらの空間の色に意識を向けることで、日々の暮らしに新たな心地よさや発見が生まれるかもしれません。


「建築家の色彩パレット」では、これからも様々な建築家やデザイナーの方々から、空間と色彩に関する示唆に富むお話を伺ってまいります。どうぞ次回の記事にもご期待ください。