建築家が語る:色彩計画で「失敗しない」ためのプロの視点
空間の印象を大きく左右する色彩は、私たちの生活空間や働く空間にとって非常に重要な要素です。しかし、いざ自分で色を選ぼうとすると、思い描いていたイメージと違ってしまったり、どこか落ち着かない空間になってしまったりと、難しさを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、「建築家の色彩パレット」に登場するある建築家が、空間の色彩計画において一般の方が陥りやすい「失敗例」とその「回避策」について、プロフェッショナルの視点からお話しします。専門知識がない方でも実践できる具体的なヒントを含んでいますので、ぜひご自身の空間づくりの参考にしていただければ幸いです。
空間の色彩計画における、よくある失敗例
色彩計画は、単に好きな色を選ぶことではありません。建築家は、空間の機能やそこに集まる人々の心理、さらには光や素材との関係性など、様々な要素を複合的に考慮して色を選びます。そうしたプロの視点から見ると、一般の方が陥りやすい失敗にはいくつかの典型的なパターンがあると感じています。
失敗例1:サンプルと実際の色の違いに驚く
壁の色などを小さなサンプルで確認した時には良いと思った色が、実際に広い面積に塗ってみるとイメージと全く違った、ということはよくあります。これは「面積効果」と呼ばれる現象が関係しています。同じ色でも、面積が大きいほど明るく、鮮やかに見える傾向があるのです。また、照明の種類(自然光か人工光か、その色温度はどうか)や、壁の素材感(マットか、光沢があるかなど)によっても色の見え方は大きく変化します。
失敗例2:「好き」な色を選んだのに落ち着かない空間になった
ご自身の好きな色を取り入れることは大切ですが、それが空間全体の色調と調和していなかったり、空間の目的(例:リラックスしたい寝室、集中したいワークスペース)に合っていなかったりすると、居心地の悪い空間になってしまうことがあります。特定の色が持つ心理的な影響(例:赤は活気を与えるが、使いすぎると興奮状態を招く)を理解せず、感覚だけで色を選んでしまうことも失敗につながります。
失敗例3:アクセントカラーを使いすぎる、または色が多すぎる
空間に変化やリズムを与えるアクセントカラーは効果的ですが、多用しすぎたり、色同士のコントラストが強すぎたりすると、視覚的に落ち着かない、騒がしい印象の空間になってしまいます。色数が増えるほど、全体の調和を取るのが難しくなります。
失敗を回避するためのプロのアプローチ
では、こうした失敗を避けるためには、どのような考え方や方法があるのでしょうか。建築家が色彩計画を進める上で意識しているポイントをご紹介します。
回避策1:「点」ではなく「面」と「空間全体」で色を考える
まず重要なのは、色を単体で捉えるのではなく、それが壁全体、床全体、天井全体といった「面」になった時にどう見えるか、さらにそれらの色が組み合わさって「空間全体」としてどのような印象になるかを想像することです。可能であれば、少し大きめのサンプルを取り寄せ、それを実際に使用する壁に貼ってみるなどして、様々な角度や時間帯の光の下で色の見え方を確認することをおすすめします。照明計画も同時に考慮することが大切です。
回避策2:空間の目的とそこで過ごす人の心理を優先する
色を選ぶ前に、「この空間でどのように過ごしたいか」「誰がどのように使うか」を明確に定義することが重要です。例えば、リビングであれば「家族が集まってリラックスできる」、書斎であれば「集中して仕事に取り組める」といった目的です。その目的に合わせて、どのような色のトーン(明るさや鮮やかさ)が適しているかを考えます。暖色系は暖かさや親密さを、寒色系は落ち着きや涼やかさを感じさせやすいなど、色の一般的な心理効果を知っておくと役立ちます。ご自身の「好き」な色は、まず小物や家具で取り入れてみるのも良い方法です。
回避策3:色の数を絞り、調和を意識する
空間に使用する色の数は、基本的に絞った方がまとまりやすく、失敗しにくい傾向があります。ベースとなる色(壁や天井など広い面積)、メインとなる色(床や大きな家具など)、そしてアクセントカラーというように、役割を決めて色を選ぶと構成が分かりやすくなります。アクセントカラーは、空間の約5〜10%程度の面積に留めると効果的と言われています。色の組み合わせに迷う場合は、トーン(色の明るさや鮮やかさのグループ)を揃えると、異なる色同士でも調和が取りやすくなります。
回避策4:素材の色や質感も「色」として捉える
木材の木目、コンクリートの質感、タイルの凹凸、布の風合いなど、素材そのものが持つ色や質感も、空間の色彩を構成する重要な要素です。これらの素材の色や質感が、選んだ塗料や建材の色とどのように響き合うかを想像することで、より深みのある、豊かな空間をつくることができます。
まとめ
色彩計画は、少しの知識と事前の確認、そして空間の目的を考えることで、失敗のリスクを大きく減らすことができます。今回ご紹介した「面積効果」「空間の目的」「色数と調和」「素材の考慮」といったプロの視点は、ご自宅や職場の空間に色を取り入れる際にきっと役立つはずです。
完璧を目指す必要はありません。まずは小さな範囲から色を変えてみる、ファブリックや小物で色を取り入れてみるなど、できることから始めてみてはいかがでしょうか。色彩を通じて、ご自身の空間をより快適で、豊かなものにしていただければ幸いです。