建築家が語る:リノベーションで活きる、未来を見据えた色彩計画
建築家が語る:リノベーションで活きる、未来を見据えた色彩計画
ウェブサイト「建築家の色彩パレット」にお越しいただき、誠にありがとうございます。このサイトでは、著名な建築家やデザイナーの視点を通して、空間と色彩の奥深い関係性について紐解いてまいります。
リノベーションは、住まいや働く空間を根本から見直し、新たな価値を生み出す重要な機会です。その中でも、色彩計画は空間の印象や心地よさを決定づける、非常に大きな要素を占めています。しかし、単に「好きな色」を選ぶだけでは、数年後、あるいは数十年後に「イメージと違った」「飽きてしまった」といった後悔に繋がる可能性も否定できません。
プロの建築家やデザイナーは、リノベーションにおける色彩計画を、単なる装飾としてではなく、未来を見据えた「投資」として捉えています。今回は、この「未来を見据えた色彩計画」について、その考え方と具体的なヒントをお話しさせていただきましょう。
長期的な視点とは何か
リノベーションにおける「長期的な視点」とは、具体的に何を指すのでしょうか。それは、現在の状況だけでなく、将来のライフスタイルの変化、家族構成の変化、趣味や趣向の変化、所有する家具やアートの変化、建材の経年変化、さらにはメンテナンスのしやすさといった多様な要素を考慮に入れて色彩を決定することです。
たとえば、小さなお子様がいらっしゃるご家庭では、数年後にお子様が成長し、部屋の使い方が変わる可能性があります。あるいは、現在のライフスタイルに合った色を選んでも、将来的にリモートワークが増えたり、新たな趣味が生まれたりすることで、空間に求められる雰囲気や機能性が変化するかもしれません。こうした未来の変化にある程度対応できるような「柔軟性」を、色彩計画に持たせることが長期的な視点に基づいた考え方と言えます。
未来を見据えた色彩計画の考え方とヒント
では、具体的にどのようにすれば、リノベーションで長期的に活きる色彩計画を立てることができるのでしょうか。いくつかのポイントをお伝えします。
1. ベースカラーの選定:空間の「幹」となる色
壁、床、天井といった空間の大部分を占める色は、一度塗ってしまうと簡単に変更することができません。これらの色を「ベースカラー」と呼びますが、ベースカラーは長期的な視点に立って慎重に選ぶ必要があります。
プロは、将来の変化に左右されにくく、どのような家具や小物、アートとも調和しやすいニュートラルカラー(白、グレー、ベージュなど)をベースに選ぶことが多いです。これらの色は空間全体に落ち着きと広がりをもたらし、将来、アソートカラーやアクセントカラーを変更することで空間の印象を大きく変えることができる「受け皿」となります。
例えば、明るいベージュの壁とナチュラルな木目の床は、温かく穏やかな空間の基盤となり、そこに合わせるカーテンやソファの色によって、モダンにもナチュラルにも、あるいはポップにも雰囲気を変えることが可能です。
2. アソートカラーとアクセントカラー:変化を許容する色
ベースカラーで空間の基盤を作った上で、次に考えるのがアソートカラー(空間の20%〜30%を占める主役の色)やアクセントカラー(空間の5%程度を占める強調の色)です。これらの色は、比較的簡単に変更できる要素(カーテン、ラグ、クッション、家具、照明器具、一面だけ色を変えた壁など)で取り入れることをお勧めします。
将来的に飽きが来たり、気分を変えたくなったりした場合でも、これらの要素の色を変えるだけで、空間全体の印象を大きく刷新することができます。季節ごとに色を変えたり、その時々のトレンドカラーを取り入れたりすることも容易になります。これが、空間に「柔軟性」を持たせる具体的な方法です。
例えば、白い壁と木目の床の空間に、ネイビーのソファとマスタードイエローのクッション、そしてグリーンの大きな観葉植物を置くとします。ソファは大きな買い物かもしれませんが、クッションや植物の色を変えるだけで、空間に春らしい明るさや、秋冬の落ち着きをもたらすことが可能です。一面だけブルーグレーのアクセントウォールを作る場合でも、他の壁はニュートラルカラーにしておくことで、その一面の色が際立ちつつ、空間全体としては安定した印象を保つことができます。
3. 素材の色と経年変化の考慮
建材そのものが持つ色や質感も、長期的な視点での色彩計画には欠かせません。特に無垢材や自然石といった素材は、時間と共に色合いや質感が変化し、空間に深みをもたらします。プロは、これらの素材の「将来の色」を想像し、全体の色彩バランスの中にどう組み込むかを考えます。
また、素材によっては汚れやすさやメンテナンスの方法が異なります。日常的な手入れのしやすさも、長期的な視点での色選びの重要な判断基準となります。例えば、小さなお子様がいるご家庭では、汚れが目立ちにくい色や、拭き取りやすい素材を選ぶことが、日々の快適さに繋がります。
4. 光の影響と将来の照明計画
空間の色は、光の種類や強さによって大きく変化します。自然光の入り方、人工照明の色温度や配光を考慮することはもちろん、将来的に照明計画を変更する可能性も頭に入れておくことが望ましいでしょう。リノベーション時に、様々な照明器具や色温度に対応できるような下地や配線を計画しておくと、将来の選択肢が広がります。
また、隣に新しい建物が建つなど、自然光の入り方が変わる可能性も考慮に入れ、様々な光の条件下で色がどのように見えるかを確認することが重要です。
プロの思考プロセス:今と未来をつなぐ
プロの建築家やデザイナーがリノベーションの色彩計画を行う際には、お客様の「今」の好みや要望だけでなく、「将来」どのように暮らしたいか、家族構成はどのように変化するか、どのようなライフイベントが起こりうるかといった、一見色彩とは直接関係ないようなことも丁寧にヒアリングします。
そして、既存の建物の構造、立地、周辺環境、光の入り方、そしてお客様が現在お持ちの家具やアートなどを総合的に分析します。これらの情報を基に、単に美しいだけでなく、機能的で、メンテナンスがしやすく、そして何よりも将来の変化に柔軟に対応できるような「骨太」な色彩計画を立案します。
色見本を見ながら色を選ぶ際も、小さなサンプルだけでなく、可能な限り大きな面積で確認したり、様々な時間帯の光の下で見たりと、実際に空間に塗られた際の見え方をシミュレーションすることに時間をかけます。
まとめ
リノベーションにおける色彩計画は、単に空間を美しく飾るだけでなく、未来の暮らしを豊かにするための大切なプロセスです。長期的な視点を持つことで、変化に対応できる柔軟性のある空間、そして何年経っても心地よく感じられる空間を実現することができます。
今回お話ししたベースカラー、アソートカラー、アクセントカラーの考え方や、素材、光といった要素を意識することで、ご自身の空間のリノベーションにおいても、より深く、そして計画的に色彩を選ぶことができるはずです。プロの視点が、皆様の空間づくりに少しでもお役に立てれば幸いです。